2006年09月02日
苦闘の果てに【釣行記】
そういえば最近、朝焼けを見ていない。元々が夜更かしの性分で、その気になれば一生、朝日なんて見ないで生きていけるのだけど、なんだかこれはダメ人間のような気がふつふつとする。ていうか本当に自分が釣り人なのか疑う。
夕方から夜にかけての釣りもいいけれど、やはりたまには本気出して早起きして朝日の下、溌剌と健康的に釣りをするのが本道ではないかね君。とか思って午前4時に起床してみた。
目覚ましで起きたはいいが驚くことに体が鉛のように重く、当たり前だ3時間しか寝ていない。まるで二日酔いのように重たい頭を抱えつつ、ふらふらしながら釣り場へ向かう。どこが健康的だっちゅう話である。
一ヶ月ぶりの離岸提へ。渡船の上で念願の朝焼けを見つつ、やっぱり早起きは良いなあ清清しくて、などと思う。正確に言えばまだ寝起きの頭は明瞭ではなく、むしろ怠惰な眠りから強制的に覚まされたことを頭の隅では陰鬱に呪っているのであって、本当に僕釣り人かしらん。
しかし釣り場に渡ってしまえば現金なものでそそくさと用意をする。先日は工事で入れなかった先端部分でイカの生育状況を確かめたい。というより、300g級まで育っているのと、まだ親がいるのは知っているのでそいつらを釣りたい。岸の防波堤からそこそこ釣れるので、離岸提はパラダイスじゃないかという甘い期待がある。
最初に渡ったときは僕だけで貸しきり状態。チヌ師もいない。やっと頑迷な睡魔の膜から解き放たれた脳細胞の一つ一つが活性化し、アドレナリンが充満していくのを感じる。釣り人でよかった。紫色と朱色が混じる空と、複雑な藍色の海へ向け、僕はメガバス/XOR海煙C-83MHでフルキャスト。今日の釣りが始まった。
とか言いつつ最初に投げるのは20gのメタルジグである。50cm級のカンパチの群れがたまに回ってくるらしい。シーバスもマゴチも気になるので、海面から底から岸際まで広く探る。ついでに周辺の水深も探る。離岸提の沖側は5~7m、岸側は3~5m、先端部分からまっすぐ延長線上、つまり岸と平行な方向だけ少し深くて10mぐらいはありそうだ。
30分ほど投げたが反応がないのでよろしい。本日はイカに専念できる。と活性化された脳細胞でポジティブな僕はダイワ/MDスクイッド3.5号ディープ(ピンク/赤)をセット。各方向へ投げていく。数投後、先端から沖へと投げた時に、がごんという感じのバイトがあった。
深場で食ってきたそいつは、乗った瞬間どーんと走り出した。トルクフル。海煙がベリーから曲がっている。すわ2kg級かと思った。思わず脳細胞の活性化が加速し、ニュータイプに進化してしまうかと思うほどエキサイティングである。要するに現実はうわー引く。すげー。うほほ。とか叫んでいるのであって興奮状態の極みである。
しかしながら強い引きに耐え、竿のトルクで矯めてファイトしているとイカがいつの間にかざばっと海面に浮かんだ。30m近く向こうである。けっこうデカイが見たところさすがに2kgはなさそうだ。海面に浮かんでも強烈に引くが、なんとかいなして足下まで寄せ、慎重に玉網ですくった。

上げてみたら甲長28cm、家で計ると約900gだった。先日の1kgよりも引きは強烈で、初めて海煙をベリーまで曲げたので満足である。キロ近辺でもファイトによってはここまで曲がることも判明した。そりゃまあ竿なので曲がらなければおかしいけど、それにしてもこの竿のバットまで曲がることなんてあるんだろうか。エギグランド・トライバルは1.5kgでバットまで満月状態だったんだけど。
ともあれ幸先のいいスタートである。朝焼けは次第に薄れ、早朝の涼しい風が静かに頬を撫でる。漁船が行き交い、潮の香りがかぐわしい。釣ったから言うんじゃないけど、いい朝である。やっぱり早起きしてよかった。海はとてもいい。
土曜日だけあって、何度も渡船が往復しチヌ師たちが次々と上がってくる。貸し切りとは行かなくなったがエギングはまだ僕一人のようだ。この先端部分は先日渡った根元部分から途切れて切り離されていて、延長は300~400mぐらい。ロッド片手にランガンしてみる。
先端から100mぐらいのところの沖側で、少し浅くなっているところを見つけた。他は5m前後だが幅30mぐらいは3m前後になっている。この境界を探るとすぐに300g級を追加した。釣りってけっこう簡単である。まだ釣り始めて1時間も経っていない。このままだとどれぐらい釣れちゃうんだろ。乱獲はいけないからキープは3ハイまでにしよう。うはは。
気付いたら午後零時だった。中天に上がった太陽のように僕の疲労困憊はピークに達していた。シャクリ続けた右手が鉛のように重く手首に鈍い痛みを感じる。背筋が悲鳴を上げかけている。剛竿なんて使うもんじゃない。
いきなり時間が経ったのは要するに、あれから1ハイも釣っていないからである。驚くべき事実だが本当だ。僕はこの間、約6時間、ずっとずっと投げてはシャクリ投げてはシャクリ、壊れた自動人形のように同じ作業を延々と繰り返していた。海からは一切の応答が無かった。
やっぱり早起きなんてするもんじゃなくて海なんて嫌いだ。6時間の間に別人のような思いを持つに至り、爽やかさや清清しさは呪詛と怨嗟に変わり、脳は不活性物質で充満している。釣りって本当に因果な趣味である。
もちろんこの間、僕は自分にできるすべてのことを試した。約20本持ってきた餌木をすべて使い、表層から底、足下から沖まであらゆる場所を探り、通常のジャークからスラックジャーク、底ズリ、中層ただ引き、ボトムでロングポーズなど、自分が知るあらゆることを試してみた。
2~3度、アタリはあったが乗せるに至らなかった。一度はシャクリ直後にぐいっと引かれ、乗せきれず。一度はフォール中にぐいんと引っ張られたがこれも同様。あまりに明確なアタリだったのでイカではなく魚だったのではないかと疑う。というかこの海、イカいない。という結論に僕は達しそうだ。朝の高揚が幻としか思えない。
問題はこの間、一度も海草が引っかかってこなかったことであって、海底は予想以上にプアである。根掛かりも一度もなく、海底をズル引きしても何も引っかからない。イカが留まれそうなポイントが把握できない。堤防上にはいくつものスミ跡があり、実績はあるのだが、これは潮回りによって回遊するイカを釣っているのではないか。
もっと問題なのは、泳いでいるイカの姿を一度も見なかったことだ。堤防の足下に小さいのがいたり、餌木を沖から追ってくるものだろう普通。それが一度もない。午後4時ごろの満潮に向けて潮位は上がりつつあり、潮は動いている。時折、強い日差しが照りつけるが基本的には薄曇。条件はいいはずだ。しかし反応はない。イカもいない。絶滅したと判断しても無理はない。
僕はあんまりジャークをやりすぎて右手に豆ができそうで、その前に腱鞘炎になりそうだったので時々、他の釣りもしてみた。バイブレーションならただ巻きでシーバスも狙える。しかしこれも投げまくっても反応がないのでワインド釣法を試みる。潮位が上がってきて水深もできたので岸壁ジギングもしてみる。気付けばまたジャークしてるじゃないか右腕が死にそうじゃないか。
それでも僕は黙々と釣りをした。時々、水分補給とおにぎりを口にするぐらいの5分程度の休憩を挟み、ほとんど休みもせずに投げ続け、シャクリ続けた。誰も褒めてくれないので自分で褒める。あんた馬鹿じゃないの?ていうかもう帰ればいいのに。
トピックスといえば、先端部分でアジの生き餌を泳がせていたおじさんがハマチを時々釣り上げていたことぐらいだ。50cmは超えているのであって、群れが不定期に回ってくるらしい。ハマチが掛かると3号以上の磯竿ががぎゅーんと曲がり走り回られる。すごい。
ハマチとファイトしながらおじさんが「そこに群れが来てる、早く投げろ」と言ってくれたので感謝しつつメタルジグを乱打するがハマチはそんなもの見向きもしないのであった。鼻先のジグをふんと冷笑しつつ無視されたときには体中が脱力するのを感じた。
午後1時。僕はもうだめだ。ここまでよく頑張った。誰もねぎらってくれないから自分で労わる。午前中にとっとと帰ればよかったのに、判断力がないねまったく。ていうかお前釣り下手すぎだろ。イカがいないはずないじゃないか。まったく情けない。
今日何度目かの渡船がやってくるのが遠くに見えた。あれに乗って帰ろう。ということはもうこれがラストキャストである。いい加減弛緩した頭を引き締め、なけなしの集中力をかき集める。ここまで来て今更イカが釣れるとは思わないが、悔いが残らないよう最後に納得の行くキャストとリトリーブを、基本に忠実に行って締めとしたい。
ヤマシタ/エギ王Q速3.5号を選び、沖側にフルキャスト。潮位が上がって水深5m以上はある。テンションを微妙に保ちつつフォールさせる。着底の感触を得た。そのまま1分間ステイ。イカが見ている。寄ってきているに違いない。極小のバイトも逃さぬよう集中する。
満を持して強ジャーク。すかさずスラックを取りテンションフォールさせる。Q速3.5号は強ジャークで最大4m近く浮き上がり、沈下速度は1mあたり2秒が目安だ。ラインや潮流の影響を考慮し、フォールは約4秒とする。5秒以上だと着底するのは、今日さんざん試したから知っている。こうすると、餌木が近くに来るほど、ジャークによる浮上は大きくなるのだから差し引きで泳層が上がってくる。
着底寸前に弱⇒強の2段ジャーク。小さくシャクるのはフォールで乗っていないかという聞き合わせと、次の強ジャークへの動き出しをよくすることを兼ねている。2段目のシャクリはスラックが出てしまうので、強めにする。左右へのダートが大きくなる。
強弱の組み合わせ、ダートと急浮上のどちらを重視するかなど、今日一日でかなりいろんなことを考えながら動作を覚えた。今までがいかに適当にやっていたかということでもある。僕はエギングの動作を基本から本や動画や人から学んでおらず、雑誌に掲載されているものを拾い読みして単語や知識を半分かりで使っている。だからこのブログでもさぞかし間違いを記していると思うが、もしあれば指摘してやってくださればありがたい。
船が近づいてきた。焦らず有終の美を飾ろう。3度目のシャクリ後のフォール。3秒で糸がふけた。
おやおかしい。ここだけ浅いのかな。ということも可能性としてはあろうが、こういう時は考える間もなく強ジャークに決まっている。がつんごんという感じで抵抗が伝わった。疲れきった右手首が悲鳴を上げそうになったが、わずかに残ったなけなしの根性で歯を食いしばってこらえた。乗った。乗った。クララが乗った。じゃないイカが乗った。
うわすげえオレ格好いんじゃね?最後に大逆転満塁ホームランじゃね?と大興奮しつつ寄せてくる。アドレナリンが何時間かぶりに放出される。この間長かった。生きて釣りをしていればいいこともある。頑張ったからこそ報われる。
幸せを噛み締めつつどんどん寄せてくる。そんなに大きくはなさそうだがいいのだ。釣ったことに意義があるのだ。重苦しい感じなので最初はコウイカかと思ったが、ちゃんとジェット噴射の感触がある。もう500gでも玉網出しちゃうよと寄せてきた足下を勇んで見れば、
タコであった。
そんなに大きくはない。この瞬間の微妙な感情をどう名づけよう。かつて人類が直面したことがないような思い。さまざまな思考が頭の中を駆け巡る。冷蔵庫の麦茶をぐいと飲んだら麺つゆだったみたいな。サヨナラヒットを打ったと思ったら逆転のランナーがホームインする前に二塁タッチアウトで延長戦みたいな。海水浴に行ったらサメがいて泳げなかったみたいな。
この感情をどう形容すれば良いのか分からないので僕は思考停止し、しかし確実にタコをランディングし、速やかにビニール袋に入れて逃げ出さないよう口を強く硬く縛り、クーラーボックスに入れるまでの一連の動作を流れるように無表情で完遂した。
そうしたらそのときちょうど船が到着して、僕はてきぱきと荷物をまとめ、周辺のごみをさっと拾って船頭さんを待たせないようすぐに乗船した。その間も依然として無表情であった。なんかまあ終わりよければ全てよしだけど、終わりが微妙ならすべて微妙、みたいな。とりあえず帰ってから右腕に湿布をして、タコをさっとゆでて一杯やるのだけは間違いないのであって、ああもうホント微妙だなあ今日の釣りって。
Tackle Data:
メガバス/XOR海煙C-83MH+シマノ/バイオマスターMg2500HGS+デュエル/スムーズ1号+同/フューズフロロ10lbs
夕方から夜にかけての釣りもいいけれど、やはりたまには本気出して早起きして朝日の下、溌剌と健康的に釣りをするのが本道ではないかね君。とか思って午前4時に起床してみた。
目覚ましで起きたはいいが驚くことに体が鉛のように重く、当たり前だ3時間しか寝ていない。まるで二日酔いのように重たい頭を抱えつつ、ふらふらしながら釣り場へ向かう。どこが健康的だっちゅう話である。
一ヶ月ぶりの離岸提へ。渡船の上で念願の朝焼けを見つつ、やっぱり早起きは良いなあ清清しくて、などと思う。正確に言えばまだ寝起きの頭は明瞭ではなく、むしろ怠惰な眠りから強制的に覚まされたことを頭の隅では陰鬱に呪っているのであって、本当に僕釣り人かしらん。
しかし釣り場に渡ってしまえば現金なものでそそくさと用意をする。先日は工事で入れなかった先端部分でイカの生育状況を確かめたい。というより、300g級まで育っているのと、まだ親がいるのは知っているのでそいつらを釣りたい。岸の防波堤からそこそこ釣れるので、離岸提はパラダイスじゃないかという甘い期待がある。
最初に渡ったときは僕だけで貸しきり状態。チヌ師もいない。やっと頑迷な睡魔の膜から解き放たれた脳細胞の一つ一つが活性化し、アドレナリンが充満していくのを感じる。釣り人でよかった。紫色と朱色が混じる空と、複雑な藍色の海へ向け、僕はメガバス/XOR海煙C-83MHでフルキャスト。今日の釣りが始まった。
とか言いつつ最初に投げるのは20gのメタルジグである。50cm級のカンパチの群れがたまに回ってくるらしい。シーバスもマゴチも気になるので、海面から底から岸際まで広く探る。ついでに周辺の水深も探る。離岸提の沖側は5~7m、岸側は3~5m、先端部分からまっすぐ延長線上、つまり岸と平行な方向だけ少し深くて10mぐらいはありそうだ。
30分ほど投げたが反応がないのでよろしい。本日はイカに専念できる。と活性化された脳細胞でポジティブな僕はダイワ/MDスクイッド3.5号ディープ(ピンク/赤)をセット。各方向へ投げていく。数投後、先端から沖へと投げた時に、がごんという感じのバイトがあった。
深場で食ってきたそいつは、乗った瞬間どーんと走り出した。トルクフル。海煙がベリーから曲がっている。すわ2kg級かと思った。思わず脳細胞の活性化が加速し、ニュータイプに進化してしまうかと思うほどエキサイティングである。要するに現実はうわー引く。すげー。うほほ。とか叫んでいるのであって興奮状態の極みである。
しかしながら強い引きに耐え、竿のトルクで矯めてファイトしているとイカがいつの間にかざばっと海面に浮かんだ。30m近く向こうである。けっこうデカイが見たところさすがに2kgはなさそうだ。海面に浮かんでも強烈に引くが、なんとかいなして足下まで寄せ、慎重に玉網ですくった。

上げてみたら甲長28cm、家で計ると約900gだった。先日の1kgよりも引きは強烈で、初めて海煙をベリーまで曲げたので満足である。キロ近辺でもファイトによってはここまで曲がることも判明した。そりゃまあ竿なので曲がらなければおかしいけど、それにしてもこの竿のバットまで曲がることなんてあるんだろうか。エギグランド・トライバルは1.5kgでバットまで満月状態だったんだけど。
ともあれ幸先のいいスタートである。朝焼けは次第に薄れ、早朝の涼しい風が静かに頬を撫でる。漁船が行き交い、潮の香りがかぐわしい。釣ったから言うんじゃないけど、いい朝である。やっぱり早起きしてよかった。海はとてもいい。
土曜日だけあって、何度も渡船が往復しチヌ師たちが次々と上がってくる。貸し切りとは行かなくなったがエギングはまだ僕一人のようだ。この先端部分は先日渡った根元部分から途切れて切り離されていて、延長は300~400mぐらい。ロッド片手にランガンしてみる。

気付いたら午後零時だった。中天に上がった太陽のように僕の疲労困憊はピークに達していた。シャクリ続けた右手が鉛のように重く手首に鈍い痛みを感じる。背筋が悲鳴を上げかけている。剛竿なんて使うもんじゃない。
いきなり時間が経ったのは要するに、あれから1ハイも釣っていないからである。驚くべき事実だが本当だ。僕はこの間、約6時間、ずっとずっと投げてはシャクリ投げてはシャクリ、壊れた自動人形のように同じ作業を延々と繰り返していた。海からは一切の応答が無かった。
やっぱり早起きなんてするもんじゃなくて海なんて嫌いだ。6時間の間に別人のような思いを持つに至り、爽やかさや清清しさは呪詛と怨嗟に変わり、脳は不活性物質で充満している。釣りって本当に因果な趣味である。
もちろんこの間、僕は自分にできるすべてのことを試した。約20本持ってきた餌木をすべて使い、表層から底、足下から沖まであらゆる場所を探り、通常のジャークからスラックジャーク、底ズリ、中層ただ引き、ボトムでロングポーズなど、自分が知るあらゆることを試してみた。
2~3度、アタリはあったが乗せるに至らなかった。一度はシャクリ直後にぐいっと引かれ、乗せきれず。一度はフォール中にぐいんと引っ張られたがこれも同様。あまりに明確なアタリだったのでイカではなく魚だったのではないかと疑う。というかこの海、イカいない。という結論に僕は達しそうだ。朝の高揚が幻としか思えない。
問題はこの間、一度も海草が引っかかってこなかったことであって、海底は予想以上にプアである。根掛かりも一度もなく、海底をズル引きしても何も引っかからない。イカが留まれそうなポイントが把握できない。堤防上にはいくつものスミ跡があり、実績はあるのだが、これは潮回りによって回遊するイカを釣っているのではないか。
もっと問題なのは、泳いでいるイカの姿を一度も見なかったことだ。堤防の足下に小さいのがいたり、餌木を沖から追ってくるものだろう普通。それが一度もない。午後4時ごろの満潮に向けて潮位は上がりつつあり、潮は動いている。時折、強い日差しが照りつけるが基本的には薄曇。条件はいいはずだ。しかし反応はない。イカもいない。絶滅したと判断しても無理はない。
僕はあんまりジャークをやりすぎて右手に豆ができそうで、その前に腱鞘炎になりそうだったので時々、他の釣りもしてみた。バイブレーションならただ巻きでシーバスも狙える。しかしこれも投げまくっても反応がないのでワインド釣法を試みる。潮位が上がってきて水深もできたので岸壁ジギングもしてみる。気付けばまたジャークしてるじゃないか右腕が死にそうじゃないか。
それでも僕は黙々と釣りをした。時々、水分補給とおにぎりを口にするぐらいの5分程度の休憩を挟み、ほとんど休みもせずに投げ続け、シャクリ続けた。誰も褒めてくれないので自分で褒める。あんた馬鹿じゃないの?ていうかもう帰ればいいのに。

ハマチとファイトしながらおじさんが「そこに群れが来てる、早く投げろ」と言ってくれたので感謝しつつメタルジグを乱打するがハマチはそんなもの見向きもしないのであった。鼻先のジグをふんと冷笑しつつ無視されたときには体中が脱力するのを感じた。
午後1時。僕はもうだめだ。ここまでよく頑張った。誰もねぎらってくれないから自分で労わる。午前中にとっとと帰ればよかったのに、判断力がないねまったく。ていうかお前釣り下手すぎだろ。イカがいないはずないじゃないか。まったく情けない。
今日何度目かの渡船がやってくるのが遠くに見えた。あれに乗って帰ろう。ということはもうこれがラストキャストである。いい加減弛緩した頭を引き締め、なけなしの集中力をかき集める。ここまで来て今更イカが釣れるとは思わないが、悔いが残らないよう最後に納得の行くキャストとリトリーブを、基本に忠実に行って締めとしたい。
ヤマシタ/エギ王Q速3.5号を選び、沖側にフルキャスト。潮位が上がって水深5m以上はある。テンションを微妙に保ちつつフォールさせる。着底の感触を得た。そのまま1分間ステイ。イカが見ている。寄ってきているに違いない。極小のバイトも逃さぬよう集中する。
満を持して強ジャーク。すかさずスラックを取りテンションフォールさせる。Q速3.5号は強ジャークで最大4m近く浮き上がり、沈下速度は1mあたり2秒が目安だ。ラインや潮流の影響を考慮し、フォールは約4秒とする。5秒以上だと着底するのは、今日さんざん試したから知っている。こうすると、餌木が近くに来るほど、ジャークによる浮上は大きくなるのだから差し引きで泳層が上がってくる。
着底寸前に弱⇒強の2段ジャーク。小さくシャクるのはフォールで乗っていないかという聞き合わせと、次の強ジャークへの動き出しをよくすることを兼ねている。2段目のシャクリはスラックが出てしまうので、強めにする。左右へのダートが大きくなる。
強弱の組み合わせ、ダートと急浮上のどちらを重視するかなど、今日一日でかなりいろんなことを考えながら動作を覚えた。今までがいかに適当にやっていたかということでもある。僕はエギングの動作を基本から本や動画や人から学んでおらず、雑誌に掲載されているものを拾い読みして単語や知識を半分かりで使っている。だからこのブログでもさぞかし間違いを記していると思うが、もしあれば指摘してやってくださればありがたい。
船が近づいてきた。焦らず有終の美を飾ろう。3度目のシャクリ後のフォール。3秒で糸がふけた。
おやおかしい。ここだけ浅いのかな。ということも可能性としてはあろうが、こういう時は考える間もなく強ジャークに決まっている。がつんごんという感じで抵抗が伝わった。疲れきった右手首が悲鳴を上げそうになったが、わずかに残ったなけなしの根性で歯を食いしばってこらえた。乗った。乗った。クララが乗った。じゃないイカが乗った。
うわすげえオレ格好いんじゃね?最後に大逆転満塁ホームランじゃね?と大興奮しつつ寄せてくる。アドレナリンが何時間かぶりに放出される。この間長かった。生きて釣りをしていればいいこともある。頑張ったからこそ報われる。
幸せを噛み締めつつどんどん寄せてくる。そんなに大きくはなさそうだがいいのだ。釣ったことに意義があるのだ。重苦しい感じなので最初はコウイカかと思ったが、ちゃんとジェット噴射の感触がある。もう500gでも玉網出しちゃうよと寄せてきた足下を勇んで見れば、
そんなに大きくはない。この瞬間の微妙な感情をどう名づけよう。かつて人類が直面したことがないような思い。さまざまな思考が頭の中を駆け巡る。冷蔵庫の麦茶をぐいと飲んだら麺つゆだったみたいな。サヨナラヒットを打ったと思ったら逆転のランナーがホームインする前に二塁タッチアウトで延長戦みたいな。海水浴に行ったらサメがいて泳げなかったみたいな。
この感情をどう形容すれば良いのか分からないので僕は思考停止し、しかし確実にタコをランディングし、速やかにビニール袋に入れて逃げ出さないよう口を強く硬く縛り、クーラーボックスに入れるまでの一連の動作を流れるように無表情で完遂した。
そうしたらそのときちょうど船が到着して、僕はてきぱきと荷物をまとめ、周辺のごみをさっと拾って船頭さんを待たせないようすぐに乗船した。その間も依然として無表情であった。なんかまあ終わりよければ全てよしだけど、終わりが微妙ならすべて微妙、みたいな。とりあえず帰ってから右腕に湿布をして、タコをさっとゆでて一杯やるのだけは間違いないのであって、ああもうホント微妙だなあ今日の釣りって。
Tackle Data:
メガバス/XOR海煙C-83MH+シマノ/バイオマスターMg2500HGS+デュエル/スムーズ1号+同/フューズフロロ10lbs
Posted by ポンプ小屋マスター at 00:36│Comments(8)
│烏賊
この記事へのコメント
やはりサイズではなく個体の活性ですね。
海煙のベリーまで持っていくとはナイスファイトです。
でも、それだけ走った相手を30m沖でザバッと浮かせる剛竿って。。。
>タコ
オチにはもってこいのマテリアルでしょ?
海煙のベリーまで持っていくとはナイスファイトです。
でも、それだけ走った相手を30m沖でザバッと浮かせる剛竿って。。。
>タコ
オチにはもってこいのマテリアルでしょ?
Posted by サンチャゴ at 2006年09月03日 10:35
長時間の釣行おつかれさまです!
最後のタコはいいっすね!
イカじゃないけど、がんばったごほうびっすよ!
右腕、大丈夫っすか??
最後のタコはいいっすね!
イカじゃないけど、がんばったごほうびっすよ!
右腕、大丈夫っすか??
Posted by ハク at 2006年09月03日 11:02
いいオチですな~あーたヾ(〃^∇^)ノわぁい♪
お笑い番組なみです・・てか仕込んでる?
っと冗談はさておき
釣り行って、即釣って、ずーっとノーバイト・・・
一尾目がデカければデカイほど微妙な感じに・・なっちゃう・・
わかりますウ・・ ウン(・_・)
釣れてるからホントはOKなのに・・釣り人の性ですね
沖堤防行っておなか痛くなったりしたらどうするんだろう・・
こっちは渡しとかほとんどないので・・(・・*)。。oO(想像中)
お笑い番組なみです・・てか仕込んでる?
っと冗談はさておき
釣り行って、即釣って、ずーっとノーバイト・・・
一尾目がデカければデカイほど微妙な感じに・・なっちゃう・・
わかりますウ・・ ウン(・_・)
釣れてるからホントはOKなのに・・釣り人の性ですね
沖堤防行っておなか痛くなったりしたらどうするんだろう・・
こっちは渡しとかほとんどないので・・(・・*)。。oO(想像中)
Posted by 班長 at 2006年09月03日 12:56
>サンチャゴさん
この900gは、先日の1kgより肉厚で胴も太かったです。
海煙で寄せると、海面にすぐ浮いちゃって、時間を掛けずに寄ってくるのでイカが疲れてないのか足下での抵抗がかなりあるんですよ。
なかなか玉網に大人しく入ってくれずに苦労しました。
硬い竿も善し悪しありますね。とりあえずジャークや寄せのつたなさはカバーしてくれますが、トータルで見ればごく普通の硬さがやはりいいような気もします。
タコは・・・ネタになったのですべてを赦します。ていうか本音では割と喜んでいます。おいしかったです(いろんな意味で
この900gは、先日の1kgより肉厚で胴も太かったです。
海煙で寄せると、海面にすぐ浮いちゃって、時間を掛けずに寄ってくるのでイカが疲れてないのか足下での抵抗がかなりあるんですよ。
なかなか玉網に大人しく入ってくれずに苦労しました。
硬い竿も善し悪しありますね。とりあえずジャークや寄せのつたなさはカバーしてくれますが、トータルで見ればごく普通の硬さがやはりいいような気もします。
タコは・・・ネタになったのですべてを赦します。ていうか本音では割と喜んでいます。おいしかったです(いろんな意味で
Posted by ポンプ小屋マスター at 2006年09月03日 16:34
>ハクさん
右腕は肩から指先まで鈍い痺れがあります。草野球で5回1/3を5失点という感じの疲労です(分かりづらい
ヒロ内藤氏だったか、ジャークベイト(ミノー)をバシバシとジャークしすぎて、右手首の周囲が3cm太くなったという逸話を思い出しました。
このまま鍛えれば、僕の球速も10km/hは伸びるかもしれません。本業はピッチャーじゃないんですが。
タコはさっと茹でて、ポン酢でいただきました。たまに食べるとイカよりうまかったかも。今度はタコテンヤ持って行こうと思います。そんで最後にイカを釣るのがドラマ(
何言ってるんだ
右腕は肩から指先まで鈍い痺れがあります。草野球で5回1/3を5失点という感じの疲労です(分かりづらい
ヒロ内藤氏だったか、ジャークベイト(ミノー)をバシバシとジャークしすぎて、右手首の周囲が3cm太くなったという逸話を思い出しました。
このまま鍛えれば、僕の球速も10km/hは伸びるかもしれません。本業はピッチャーじゃないんですが。
タコはさっと茹でて、ポン酢でいただきました。たまに食べるとイカよりうまかったかも。今度はタコテンヤ持って行こうと思います。そんで最後にイカを釣るのがドラマ(
何言ってるんだ
Posted by ポンプ小屋マスター at 2006年09月03日 16:39
>班長さん
ねえ。仕込みと思われますよねえ。しかしこれが現実だから恐ろしいです。というか、このままだとオチがなくて釣行記が面白くないなーと考えていたところで釣れたのでブログ的には救世主です。
僕は場所の見切りがヘタなんですが、特に最初に一発出たら、余計にそこを離れづらくなってしまいます。
それで今回もグダグダになりました。もっと別の部分に船で渡し直して貰うとかも考えれば良かったと反省。
ここの渡船は、所要時間5分程度の近場なので、電話で呼んだらすぐ来てくれるのです。忘れ物しても安心。
でも、腹痛は確かに嫌ですね・・・呼んでも間に合わなかったりしたら(想像中止
ねえ。仕込みと思われますよねえ。しかしこれが現実だから恐ろしいです。というか、このままだとオチがなくて釣行記が面白くないなーと考えていたところで釣れたのでブログ的には救世主です。
僕は場所の見切りがヘタなんですが、特に最初に一発出たら、余計にそこを離れづらくなってしまいます。
それで今回もグダグダになりました。もっと別の部分に船で渡し直して貰うとかも考えれば良かったと反省。
ここの渡船は、所要時間5分程度の近場なので、電話で呼んだらすぐ来てくれるのです。忘れ物しても安心。
でも、腹痛は確かに嫌ですね・・・呼んでも間に合わなかったりしたら(想像中止
Posted by ポンプ小屋マスター at 2006年09月03日 16:44
まずは、お疲れ様でした。
釣りって報われない時も多いけど、それでも大好きで止められないし・・・深いッス。
釣りって報われない時も多いけど、それでも大好きで止められないし・・・深いッス。
Posted by seven at 2006年09月03日 20:17
>sevenさん
報われないときが多いからこそ、狙い通りに釣果を得たら嬉しいんでしょうね・・・
釣れても釣れなくても、結局楽しいということで。なかなかやめるわけにはいきませんね。
報われないときが多いからこそ、狙い通りに釣果を得たら嬉しいんでしょうね・・・
釣れても釣れなくても、結局楽しいということで。なかなかやめるわけにはいきませんね。
Posted by ポンプ小屋マスター at 2006年09月03日 21:37
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