頭を使う【釣行記】
朝、釣りに行く試みは続いている。正確に言うと、朝、釣りに行くために早く起きようとする試みであって、あくまで試みである点がポイントだ。実際には布団と会話ばかりしてなかなか起きられない。
春眠暁をなんとやらと言うが、秋だってなかなかの実力がある。目覚めるとちょっとだけ肌寒く、薄い布団が極上の温もりに感じる。涼しいから寝苦しいこともない。気持ちよく朝の新鮮な空気を呼吸しているうちに、それが寝息に変わる。秋の朝は恐ろしい。
だが、だからってぐーすか寝てる場合じゃなーい。僕は魚を釣りたいのだ。正直言って九月に入ってからろくに釣果を上げてない。天候が悪くて厳しい状況が多かったこともあるけど、何だかもうとても魚の感触が恋しい。
だから今日は睡眠を欲する体に鞭打って無理やり午前5時に起きた。どれくらい無理やりかと言うと、気がついたら釣り場に着いていたというぐらいで、起きて着替えてという記憶がまるでない。自分が恐ろしい。この間に何か犯罪を実行している可能性があると言われても覚えてないから反論できない。被害者は申し出ないでほしい。
今日はH川である。とりあえず魚の感触が欲しいといえばバスが手っ取り早いだろ、と言うと非常に身の程知らずに聞こえるけど、僕にとってイカやシーバスよりはまだ多くのパターンを持っているというだけの話である。魚の顔を見られる可能性が他に比べて少しは高い。
だがそんな僕の思い込みはまさに身の程知らずで、しばらくはなかなか反応がない。今日の川は水位、水質ともに安定しているが、ベイトフィッシュの数が少ない。夏はまるで雨のように小魚のライズがあったものだが、今日の川面は静かだ。
朝は義務と権利のようにトッププラグを投げるのだけど、メガバス/Dog-Xに一度だけ岸際でぽちゅっという吸い込み系のバイトがあっただけ。どうにも魚っ気が感じられない。二カ所ほど場所を替え、とある中規模の流れ込みでやっと小魚の群れを見つけた。
今日も仕事たる僕は、出勤までもうあまり時間がない。ここでトップで釣れば格好いいけど、とりあえず魚の顔を見ることを優先することにする。クランクベイトを数投した後、タックルをスピニングに持ち替える。
最初からゲーリーヤマモト/ヤマセンコー3"を投げるのも大人げないので、たまには違うものを投げてみる。サワムラ/バレット3"。同じじゃねえか。でも少しだけ違う。バレットはダートにキレがあり、動きやフォールがセンコーより少し早い。ベイトフィッシュに着いている活性が高いバスを狙うためのシフトチェンジだ。
とか言いつつも要するにやることは同じであって、流れに乗せて少し沖側のちょっとしたブレイクを探っていたらラインがするするっと動いた。スイープにフックセット完了。だばだばと、活性が高い割にはあまり抵抗も見せずランディングしたのは、31cmであった。
うん、釣れた。じゃなーい。ちゃんと釣ったのにこの感動の薄さは何だ。どうやら僕にとって小棒メソッドは釣れて当たり前の状態になっているようで、小棒をこうやってあそこに流せばバスが釣れる。ということに何の疑いもない。作業じみている。
これではいかん。釣りを舐めている。もっと頭を使って知恵を絞って思考を巡らせて、って全部同じ内容だけど、とにかく真剣に釣りをしなければいかん。せっかく早起きしてるんだ。釣りぐらいはびしっとやりたい。だらだらやってるのは仕事だけでいい。
今日のスピニングは久々にメガバス/F2-611XS(2ps)で、長い分パワーがあるのも釣趣をそいでいるのかもしれない。長いからラインメンディングも容易で、思った通りにできるのはいいが、それに甘えてしまって適当な釣りをする自分が問題なのだ。
ここはひとつ、あまりやらない釣りをしよう。そしてきっちりと魚を獲ろう。釣れてるんだからそのまま喜んでりゃいいと思うけど、これはゲームである。自分が楽しまなくては意味がない。そしてゲームにはルールや制限があるから面白い。なければ自分で作れば良い。
とりあえず手持ちのルアーで何ができるかと考えて、タックルボックスの中を見る。そして絶望的な気分になる。この馬鹿は数個のプラグと、3"~4"のワームしか持ってきていない。朝の短い時間だから普通に考えればこれで充分だけど、新しい展開は望めない。
そうこうしているうちに時間が少なくなってきた。できれば新しい展開でもう一匹釣りたい。僕はベイトタックルにまた持ち替え、ズイール/テラー3/8ozを皮切りに手持ちのプラグを総動員して探ったが、反応は無かった。バスは確かにいる。でも活性はそんなに高くないようだ。
やっぱ小棒でしか釣れないのかなあとやや暗澹としながらふと下流側に目をやると、岸際にウイードの一群が見えた。流れ込みからの水流が当たるか当たらないかの場所で、ウイードの際からえぐれていて少し深くなっており、その深さでフラットが張り出している。小魚の群れもいる。
ウイード、フラット、止水、小魚は9cm以下。ここで何ができるか考えてみる。トップは無反応。クランクベイトは根掛かる。スピナーベイトだ。そして水面バジングだ。ウイードエッジに沿って流せばバスがもんどりうって出てくるに違いない。
浮きやすさでメガバス/V-FLAT miniを選択。少しシェイクのようにティップを揺らしつつ、ブレードが水面に出るか出ないかのところをできるだけスローに引いてみる。2投目、ウイードにぎりぎりのラインでばしゅっと出た。近距離だったのでがつんとフックセットするが、すっぽ抜ける。
次のキャストでも同じところで出たが、また乗らなかった。何だよもう。秋バスならもっとアグレッシブに食ってこいよ。どうもまだ水温が安定していないのか、気温の変化が急激なためか、そんなに活性は高くないようだ。
釣り方は合っている。だが答えが出ない。それならもっと食いやすくしてやればよい。僕は急いでゲーリーヤマモト/4"シングルテイルグラブをノーシンカーにリグって投入した。もちろん、水面を引いてテイルでアピールする。すなわちグラビンバズである。
ぴろぴろとエッジを泳いできたら、1投目で答えは出た。それまでのばしゅっという弾くようなバイトから、ごぼんと飲み込むような食い方。余裕を持って重みが出るまでラインを巻き取り、強く引き込むように合わせる。バスが反転して走り出した。
やっとゲームが成立したような気分で、やり取りも心楽しい。足下の突っ込みもいなし、確実にランディングした。40cmジャスト。このサイズがあの場所にいたということは、すっかり秋だと認識していい。夏ならば涼しくてプレッシャーの掛からない流芯などにいるはずだ。
頭を使ったというほどではないけれど、一応は狙いの通り釣った。スピナベで釣れていれば文句なしだったが、贅沢は言うまい。結局はワームでも、少し目先を変えるだけで満足度が違う。要するに自己満足だが、個人的なモチベーションは間違いなく上がる。
これからしばらくは、毎日のように状況が変わる。それを読み取って、狙って釣りをして行こう。面白がれなくては釣りではない。いつも同じような釣りをしないよう、できるだけ努力しよう。他の誰でもない、自分の面白さのためである。
というところでいい時間になったので、僕は竿を納めてクルマに帰る。ボックスをトランクに仕舞う前に、入っているルアーを確認。ヤマセンコー3"が少なかったので、車載のストックから足しておいた。なんかもう話の流れ的に台無しだけど、それはそれ、これはこれである。人間とはかように生き方を変えられない生き物なのである。僕だけかもしんないけど。
Tackle Data:
メガバス/F2-611XS(2ps)+ダイワ/ルビアス2004+ポパイ/Pbフロロ5lbs
ダイコー/ギャレットGLC-632M+シマノ/カルカッタ・コンクエスト50+サンライン/GT-R12lbs
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